武蔵野鎮守府工作部

1/700スケール艦船模型の製作をします

艦艇図面についての基礎知識

 ここでは艦船模型製作において、図面がどのように役立つのかを、素人目線から簡単に説明します。このページにたどり着いたからには、図面を模型に活かそうと考えている方なのでしょう。そして模型製作における図面の立ち位置を理解している方がほとんどでしょうが、あえて記事にしようと思います。
 というのは建前で、どちらかというと後に続く艦艇図面集についての記事に関する、総論みたいなものが主です。

図面とは

概要

 図面は言うなれば船の設計図なのですが、それには当然多くの種類があります。図面にはまず海軍が要求する仕様書とその要求を満たす性能の計画書、設計案があります。アメリカ海軍で計画されたという六連装砲塔や旧日本海軍の超大和型戦艦などはこの段階での図面です。建造すると決定したわけではないので、現実的には難しいですがわくわくするような計画も多くあります。 そして多くの計画から採用された案は、建造にあたって必要となる何種類もある図面に書き改められます。まず船体の基本構造を示す『線図』、諸要部における内部構造を示す『諸要部切断図』、側面から内部の部屋配置などを見た『船内側面図』、改装の時に用いられる『入渠用図』。そして私たちモデラーが求めている側面からの外観を示す『船外側面図』、上空から見下ろした形である『甲板平面図』、艤装配置を示す『(一般)艤装図』『(一般)配置図』、各武装の図面である『装置図』など多くあります。
 これらの図面は、船体に全体を示すものは1/100や1/96、一部を示すものは1/10~50で示されることが多く、戦艦級の図面は3m近いものもあるようです。1mの空間にあるものが1cmに描かれるわけですから、だいたい省略されてしまうのですが、少なくとも私たちはそれよりも小さいスケールで再現するので、十分すぎる資料となります

図面と模型

 図面を資料とし模型製作をすることについてですが、これには長所と短所があります。まず図面は基本的に竣工時のものと大改装の時以外のものはほとんどないです。よって最終時などの再現には、改装時に兵器の増備位置のみが書かれたメモ書きのような図面や兵器の増備記録など多くの資料を付き合わせる必要があります。その上で写真資料でもって確認、検証を行うのです。 ですが当然、記録やメモ書きが残っていなかったり、逆に写真が残っていなかったりすることは日常茶飯事です。しかし探せば案外見つかるのも事実で、なかなか奥の深い作業なのです。
 さて図面の立ち位置ですが、竣工時や大改装直後を再現するのなら図面のみでもいいのですが、最終時等の再現には十分な資料を用意した上で基本構造の資料とするのなら利用できるといったところです。改装が行われているのなら、兵装の種類や位置、周囲の構造は参考にしづらいですし、基本構造についても充分に写真資料と比較する必要があります。
 しかし、特に写真資料が少ない上不鮮明であることが多い旧日本海軍艦艇については、図面も貴重な資料です。図面が描かれた時期と改装の有無についてのリサーチを怠らなければ、模型製作においてこの上なく有用な資料となるでしょう。

 さて図面の信憑性について少し書き留めます。図面に限らず史料は「一次資料」、「二次資料」「三次資料」……と分類がなされています。一次資料というのは原典のことで、艦艇図面の場合は海軍が保管している図版のことです。旧日本海軍については敗戦時に多くを焼却処分してしまったのですが、技術者の方がこっそり残したものをはじめとし、それなりの数が残っています。艦艇図面は、一般に青焼きと呼ばれる光に弱いデリケートな印刷がなされていることもあり、原版は博物館や資料館、研究家が大切に保管しているため、目にする機会は皆無です。
 しかしそれでは研究もままならないため、これらの原版を写真で撮影したものが一般に使われています。撮影に伴いしばしば歪みが発生してしまうものの、資料そのものを加工していないため、艦艇図面についてはこれが一次資料として扱われることが多いです。また写真資料は加工されていない限り、一次資料です。
 そしてこれら一次資料を元に、新たに描かれたものを二次資料と呼びます。私はトレースされた図面は二次資料だと思っていますが、こういった線引きには個人差があります。他にも一次資料に当たってまとめられた、艦歴や軍艦史も二次資料です。もうわかると思いますが、二次資料を元に作られたものは三次資料……と続いていきます。
 一次資料は見れば一目瞭然なのですが、かなり掠れており使いづらいです。そのためネットで画像検索して出てくるきれいな図面は基本的に二次資料以下だと思ってください。信憑性についてもご想像の通り、伝言ゲームの要領で一次資料、二次資料となるうちになくなっていきます。ただどこまで信用できるかの線引きも個人差があります。
 さらに一次資料として扱われるものにも多くの種類があります。旧日本海軍の場合、艦船の竣工に伴い作成される『完成図』や建造の基本計画時に作成される『基本計画図』、様々な用途に使用するため完成図や基本計画図を艦政本部が複写した『艦本作成図』などあります。基本計画図は建造時に各所で変更があった場合、対応できない点や艦本作成図は定義に則って考えると一次資料ではない点というように問題がありますが、これらの図をまとめて『公式図』と呼ぶことが多いようです。なお当HPではこの説明に則って一次資料といった言葉を使いますが、本来的には定義に反しています(詳しくは以下)

 ここで少し「一次資料」や「二次資料」といった資料区分について補足しておきます。旧軍関連についての史料は結果的に上記のような認識でいいと思うのですが、本来の定義からは少々ずれたものとなっているので、このような認識となった過程を説明します。
 博物館的定義に則ると、一次資料は「実物」でありストックとしての情報を保有しており、二次資料は「複製・映像・写真・解説」でありフローとしての情報を保有しています(金山, 2003)。すなわち旧海軍艦艇研究にとっての一次資料は艦艇そのものにほかならないのです。
 しかし当然ながら、旧海軍艦艇がそのままの形で現存しているものはありません。とすると一次資料が欠損しているのではないかと思われるかもしれませんが、こういった場合二次資料の中でも再現性が低いもの(というか実質的に無いもの)が一次資料と同等の扱いとなります。例えば今は消え去った民族に伝わる舞踊を記録した映像は、その詳細を伝えるものがほかにない場合一次資料となるのです。そのため旧日本海軍艦艇においては写真・映像が一次資料となります。「あれ?記念艦三笠は」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、あの戦艦は記念艦となってから、二次資料に基づいた改造や修復が幾度と行われているので一次資料足りえないのです。まあ再現性は限りなく低いので一次資料という扱いでも問題ないとは思いますが。
 ちなみに図面では事情が異なります。艦艇図面は船のスケッチ等とは異なりオリジナルが存在しないため、例え艦艇が現存していても一次資料です。もっとも図面通り建造されるわけではないのですが、それでも図面自体に再現性はないため一次資料となるのです。結局のところ、再現性があるかないかが一次資料と二次資料を分ける論点となっているのです。
 この定義からお分かりになられたでしょうが前の項で、図面を写真撮影したものや写真は一次資料と言いましたが、厳密には一次資料は青焼きの図面であり写真の原版です。ですが我々は資料的価値を求めて資料を集めるのではなく模型の参考にするために集めています。写真撮影された図面や複写された写真には、情報の欠損はあるものの不当に追加された線などは存在しません。よって調べる側には不利になるとはいえ、情報の信憑性は確かなものです。かすれて見えなくなった線は「存在しない」のではなく「存在するか否か不明」なのですから。私がトレース図を一次資料と同等とは認めていないのはこれが理由です。
 つまりは我々の利用目的において、一次資料と同等な情報の信憑性を持つものは一次資料と呼んでいいと考えており、上の項での説明はこの考えによっています。しかし本来の定義からは大きく異なる考えですので、ご注意ください。

図面集について

 旧日本海軍艦艇の図面に留まらず、艦艇図面を纏めたものは世界中で数多く出版されております。この項ではその中でも特に需要があるだろう、旧日本海軍艦艇図面をまとめた書籍と、それらに収録されている艦艇を紹介します。作りたい船が決まっており、その船について手軽に扱える資料が欲しい方は大いに活用して頂けれると思います。
 またこの後に紹介する図面集についてですが、一次資料、二次資料等が入り混じっています。書籍紹介の時にそのことについて明記しておきますが、考証関係についてはあまり得意ではないので、詳しい問い合わせには応じられません。あくまでも参考程度にしてください。
 図面集は総じて高額であるか、比較的安価であっても絶版であることが多い厄介な書籍です。またこういった専門書は古書店でも決まったところのみが扱うことが多いため、古書であろうとも入手は困難です。仮に見つけられても、驚く程高額であることがほとんどで、休日の空いた時間しか作れない日曜モデラーには厳しい出費です。そのため図書館に頼ることが多いかと思います。
 日本最多の蔵書数を誇る国立国会図書館では、会員登録さえ済ませればオンラインで蔵書の複写資料を請求できます。これには該当ページを事前に知っておく必要がありますが、遠方の方でも手軽に請求できるという非常に便利なものです。艦船名などの目次から該当ページが判別できる情報さえあれば、この遠隔複写サービスを利用できます。

図面集掲載艦艇一覧

掲載艦艇一覧の注意点

書籍名のリンクからは、その書籍に収録されている艦艇を見れます。「艦船名から逆引き(未作成)」のリンクからは艦船名から収録している図面集を見れます。「Ctrl+F」などのページ内検索等も利用して探してください。以下注意点です。

  • 「艦級」「艦船名」「作成年」「備考」の4つの欄に分かれています。
  • 艦級欄が空白のところは、具体的な艦級が存在しない場合のみです。上と同じという意味ではありません。
  • 艦船名(ギリシャ数字)で示されているものは、ギリシャ数字に対応する代の艦艇を示します。例えば『扶桑(Ⅰ)』は1915年11月8日就役の扶桑型戦艦1番艦ではなく、1878年1月就役の機帆走装甲フリゲート扶桑を示します。
  • 艦船名が空白のところは、特に具体的な艦名の記載がなく、おそらく同型艦すべてに共通するものだと思われるものです。上と同じという意味ではありません。
  • 作成年は書籍に記載されていたものをそのまま転記しています。武装等について他資料からの裏付けはありません。
  • 海外艦艇にも興味があるため、こちらのほうがわかりやすいという至極私的な理由で、作成年はすべて西暦で示しています。
  • 備考欄には図面の出処が海軍公式資料ではないものや、特記すべきものが書いてあります。
  • 私が所有していない、図書館で見たときのメモによるものが多くあるため、問い合わせには応じられないかもしれないです。
  • 掲載について問題がありましたらお伝えください。速やかかつ責任を持って対応いたします。

各図面集リンク

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